レポート

釣り好きの父のこと

下前漁港

私の父は、大の釣り好きです。県内外、たくさんの海を知っている様子。その釣り好きが高じて、しばしば難解な行動をとるほどです。

自分のメールアドレスに、自分が釣った魚のサイズを自慢げに入れてみる。(誰も気付かない)
床に無数のウキを並べて嬉しそうに眺めてみる。(シンプルに不気味)
100均に売っているようなプラスチック製の収納ケースが、蓋を開けるとどこをどう細工したらそうなるのかといった具合に仕切りの板などが上手にはめ込んでいる。(釣り具たちも驚くほどのシンデレラフィット)

このようなエピソードがいくつも思い出されます。

釣り上げた魚と記念撮影をする際には、魚を少しでも大きく見せるため、自分の立ち位置に細心の注意を払い、腕をめいっぱい前に伸ばしてシャッターを切ります。遠近法を最大限に活用することを欠かしませんでした。そして晩酌のたびに、その半ば詐欺的な手法で撮影された写真を見ろと言うのでした。(もう何度も見たことか・・・)


▲写真はイメージです(photoAC)

そんなキャッチーな行動をとりがちな父ですが、私はこの父に対してすこし複雑な想いを抱えていました。
大切な父であるという想いももちろん少なからずはあったものの、それ以上に、なんとか父に認めてもらいたいという、悲痛な感情が常に胸中を占め続けていたからです。 

というのも、父は、私の好きなことに対して否定的な発言が多かった上に、学生時代に学業や部活動で良い成績を収めた場合でも、少しも褒めてはくれませんでした。今となれば、父なりに指南してくれたのだろうか?と思わないこともありません。しかし当時の私は、なぜ自らの娘にそのような態度がとれるのかが理解できず、心の底から腹を立ててしまうようなことが度々あったのです。

そんな父であっても、父の「好きなことにとことん向き合う姿勢」は尊敬の対象として私には映っていました。面倒だった存在もどこかかわいらしく見えたものでした。

「下前の漁港」のことをよく覚えています。
青森県中泊町小泊地区にある漁港です。その場所で、父はいつも釣りを楽しんでいたようです。

あるとき、例によってそこに釣りをしに向かうという父に私もついて行ったことがありました。10代半ばの頃でしたので、もう15年以上前のことです。

当時住んでいた自宅から2時間ほどかけて移動し、その漁港に到着しました。そして車から降りるや否や、父は周辺で釣りを楽しんでいた人たちに片っ端から声をかけていきました。今日どんな魚が釣れたのか、目当ての魚は釣れるのか、クーラーボックスの中を見せてもらっては今日の釣果を品定めする父。引っ込み思案だった私は、「釣り人は友達」のような不思議な雰囲気にどこか嬉しさを覚えたものです。


▲写真はイメージです(photoAC)

そのような懐かしい思い出が蘇る、かけがえのない場所。それが私にとっての「下前の漁港」です。現在の私が、趣味を通じての友人づくりにとても積極的でいられるのは、今考えると、この下前での出来事がきっかけとなっていたように思います。

下前の漁港といえば、母から教えてもらった父に関する面白いエピソードがひとつあります。

自宅から車で2時間ほどの距離にある下前の漁港。極端に遠いというわけではないにしても、気軽に赴ける距離ではありません。その日、またまた例によって釣りに出かけていた父から着信があったので、「到着の知らせかな?」と思って電話に出ると、なんと、「忘れ物があったから、届けに来てほしい。」という内容の連絡だったそうです。

ごくごく小さい釣り具を届けるために、母が往復4時間もかけて行ったのかと思うとおかしくてたまりませんでした。

先日、そのことについて父に聞いてみたら「まぁ、そのようなこともあった。」ぐらいの軽い反応だったのですが、母が言うには「あまりにいじけてしまって大変だったので、届けざるを得なかった。」ようです。父の釣りへの情熱がどんなものだったか、想像するに難くはありません。

 

気が付けば、私も釣具の買い物に付いていくようになり、ほんの少しばかり釣具に詳しくもなりました。解説員(父)とともに道具を見てまわれば嫌でも知識は付きます。

とある釣具店にて、ショーケースの中に飾られた高級なリールを、父は羨望の眼差しで見ていたことがありました。なにやら母に相談事を持ちかけている雰囲気がありましたが、特に購入するということもなく、その日は退店しました。しかし数日後、学校から帰ってきた私の目に飛び込んできたのは、例のリールでした。なるほど、と思いました。


▲写真はイメージです(photoAC)

 

この記事を書くにあたり、電話で父に「何か釣りにまつわる面白いお話はないか?」と聞いてみました。
父は「釣りを始めたばかりだった23歳の頃、何も考えずに夜に海釣りをしていたら、たくさんの流れ星を見た。数え切れないくらいに見た。何らかの流星群の日だったのだろう。」とか、「今別の海で、イルカの群れが泳ぐのを見た。あれはなかなか見られるものではない。」とか、やたらとロマンチックなエピソードばかり出てくるので、そんな父に対して思わず笑ってしまいました。

父は、つい先日還暦を迎えました。他県に暮らしているので、こんなご時世でなかなか会うことはできずにいます。しかし、テレビ電話越しに見る父は、とても元気で、いい感じにおじいちゃんらしくなったなあという印象でした。自粛が続き、もう長いこと釣りには行けていないようでとても残念そうではありましたが。

私も大人になり、父との関わり方が次第にわかってくるようになると、理解できないと腹を立てていたこと以外にも、笑ったことや感謝すべきことがそれなりにたくさんあったのだなと、このように考えられるまでになりました。

 

いろいろな想いをくれるきっかけとなった下前の海を、久しぶりに見てきました。

ここで釣りをしている父の姿が目に浮かんできました。
私は海を見つめながら、心の中でそっと「今後ともうちの父をよろしくお願いします」と挨拶をしました。

落ち着いた世の中に戻ったら、今度は私の子どもたちも連れて親子3世代で釣りに行ってみたいなぁ。

その時のためにも、父の大好きな海を大切に守り続けていかなければならない、そう強く思いました。

イベント名釣り好きの父のこと

レポーター紹介

福士彩乃
弘前市在住。
のらりくらり楽しく生きています。
青森が大好きです。
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