レポート
2021.09.08

泳いで獲る、下北半島のスピアフィッシング

初めて筆を執らせていただきます。(というかキーボードを叩かせていただきます)

下北半島はむつ市大畑町在住の佐藤恭太と申しまして、WEBデザイン業を営む傍ら年中海に浸かっている37歳です。


▲釜臥山とむつ湾と旅装束の私

さて早速ですが、スピアフィッシング(魚突き)は知ってますか?
銛(もり)やヤスと言われる長柄の器具を用いて、一息に海に潜り、魚と直接対峙して捕獲する漁法です。

一昔前に芸人さんが無人島生活とかで「獲ったどー」とやっていたあれですが、実はヨーロッパやオーストラリアをはじめ世界各地で精錬されたライフワークとして普及しています。

魚を突き刺す器具、銛は遥か昔縄文時代の遺跡からも出土され、この日本においても伝統的に絶えず続けられてきました。


▲銛(モリ)を持って海底に漂う私

■四つの海を擁する下北半島の海

下北半島は太平洋、津軽海峡、むつ湾、さらに厳密には平舘海峡と四つの海をそれぞれの岸に持つ国内有数の豊かな地形です。

大間崎沖、尻屋崎沖から伸びる海脚と津軽海峡を流れる激流は豊富な漁場を形成し、それぞれの海域から時差を持ってやってくるイカ類、回遊するクロマグロをはじめとした各種青魚も多く獲れます。

いびつな地質は海底に多くの岩礁帯を形成し、低水温を好む根魚も多様に生息します。

また日本各地から旅立ち帰路を辿る鮭の通り道にもなり古来から重要な資源となっています。

これらの沿岸ではもちろん多くの海藻類や貝類が育まれ、一年を通して沿岸の人々に恵みをもたらしてきました。

湾内に目を向けても、県内の山々から流れ出す栄養豊かな雪解け水は名産であるほたて貝を生み出しています。

近年ではホタテ貝養殖設備に導かれるマダイの資源量に着目され、ゲームフィッシングでも国内屈指のポイントとなっています。


▲スケール感がおかしくなる太平洋側クキドウノ崎、わざわざ漁船を出してもらう方法を除くと、泳いでいかないと見れない光景

■水面下に広がる、濃厚な命の海

本来スピアフィッシング人口が多い海域というのは沿岸海藻類が少なく濁りの少ない透明な海です。

豊かな栄養を湛えた下北の沿岸では、その豊かさ故に海藻が生い茂り、有機物やプランクトンが舞い踊り夏の里山のように視界が悪い。
また、平均海水温も低く、この下北半島ではプレイヤーがほとんどいません。

しかし、だからこそ、透明で色とりどりな魚がよく見える海域にはない魅力が楽しめます。

コンブやワカメ、アマモやホンダワラが生い茂る浅場では数限りない稚魚がその身を隠しながら力強く息づいています。

海中の磯や根にはまったく把握しきれないほどの甲殻類や無脊椎動物が生息し、海流に乗って次々と訪れては去るクラゲ達との出会いもあります。

海を形成する生き物たちが、凄まじいスピードで四季折々の海の表情を形成しています。


▲晴れた初夏の沿岸、ワカメの茎が賑やかに頭を出す

特濃の生命のスープに漂い、全身でこの海の豊かさを感じながら、今自分が欲しい一つの命に一対一で向き合いそれを頂く。

魚突き、スピアフィッシングの本質はそこにあります。

不特定多数に並んだ食材としての魚ではなく、個対個で目と目で向き合うことでしか得られない、相手に対する敬意が得られるのです。

スーパーマーケットで値引きされた魚のように、宴会の席でテーブルに大量に並んだ料理のように、粗末に扱うことはできなくなります。

相手の人生(魚生?)、彼もしくは彼女が生き抜いた日々に想いを馳せながら、本当の意味で「有り難く頂く」ことができます。


▲獲った直後のメスの真鯛。アイシャドーと青い輝点が全身に煌めいて、水面からのユラユラとした光りがそれを際立たせる。スピアフィッシャーマンだけが楽しめる光景。

■密漁に対する住民感情と拭えない危険性

ウェットスーツを着込んで長い銛を携えて魚を突いて獲る。ほとんどの人が「それは密漁では?違法なのでは?」という感想を持つと思います。

実は様々な条件はありますが、泳いで魚を獲る事は基本的には違法ではありません。詳しくは青森県海面漁業調整規則をお調べください。(もしくは私までご連絡ください。)

しかし沿岸でウェットスーツ姿で泳ぐ人間は、沿岸漁業者からすればほぼ密漁と認識されます。

漁業調整規則は民間に周知はされておらず、一般の方の認識は上述のとおりです。

今まで数限りなく漁業者からお叱りを受けることがありました。

柔らかい態度で法的な話を聞いてくれる方もいますが、頭ごなしに否定されることも少なくありません。

採捕が禁止されている海藻類や貝類を狙う密漁者と見分けがつかないのは確かですし、事故があれば漁業者に多大な迷惑をかけることも否定できません。

事実、単独で行うスピアフィッシングではほんの小さなミスや体調不良で死亡事故に直結するリスクの高い行為です。

充分な知識と自己管理、安全管理が求められます。

■知ることで愛する。持続可能な貴方の海。

現代、この国は海の資源量や魚食文化において多くの問題を抱えています。

スピアフィッシングは命に向き合うアプローチとしては多くの魅力に溢れています。

海に抱かれて頂く一つ一つの命は、自らの血肉となり、その海を愛することにつながっていきます。

沿岸ゴミやマイクロプラスチック、気候変動による魚種交換、捕鯨問題、乱獲による資源減少、各種養殖技術などなど枚挙に暇がありませんが、どこか他人事な海のニュースはどんどん自分事になってくるはずです。

何気なく見て接している浜辺の景色が違って見えてきます。

何もいきなり海に飛び込まなくても釣りだっていい。

もう少しだけ海を身近に感じてみませんか?

きっと季節の輪郭がより明確になり、海と命と貴方が繋がった豊かな人生が待っています。


▲真冬のスピアフィッシング。水温5℃の世界は静まり返って閑散としているが、居着いたアイナメが獲物になる。

イベント詳細

イベント名泳いで獲る、下北半島のスピアフィッシング

レポーター紹介

佐藤恭太

むつ市大畑町在住。フリーのWEBデザイナーとして活動する傍らスピアフィッシングや船釣りで海に関わる。
獲った魚は美味しく余さず食べることを念頭に、鮮度保持や長期熟成、料理法の研究に勤しむ。

\ 記事をシェアしよう /
X LINE ニュースを共有

関連リンク

八戸前沖さば 不漁ピンチから生まれた新商品
レポート
2024.10.31

八戸前沖さば 不漁ピンチから生まれた新商品

先人たちから引き継いだ育てる漁業・海峡サーモン
レポート
2024.10.31

先人たちから引き継いだ育てる漁業・海峡サーモン

ページ内トップへ