レポート
2020.07.02

【海を愛した写真家】故・工藤正市さんが撮影した青森の記憶写真<前編>

工藤正市さん(@shoichi_kudo_aomori)。私がこの方の名前を知ったのは2020年3月のこと。

SNSの「Instagram」で繋がっている写真友達の「がまじさん(@gamanunu)」が「この人の写真、すごい!」と、工藤さんの写真を紹介していたのがきっかけでした。

彼のInstagramページ見るとそこには、戦後間もない昭和30年代からの、青森県内で撮影された古いスナップ写真が多数掲載されていたのです。

■モノクローム写真

昭和25年(1950年)に生まれ、写真が趣味の私の父に、工藤正市さんの写真を紹介してみました。やはり「これはすごい!!俺が子供の頃の、良い写真ばかりじゃないか!!」と興奮し、毎晩寝不足になるほど工藤さんのInstagramページに釘付けになってしまいました。

私自身も写真は撮るのも見るのも好きで、30歳を過ぎたあたりから、モノクロで撮影された写真にも惹かれ始めました。

巨匠・森山大道さん、金村修さんらが撮影するソリッドなモノクロの世界観。日本のアンリ=カルティエ=ブレッソンとも呼ばれた故・木村伊兵衛さん、生涯に渡って写真のリアリズム追求し続けた故・土門拳さんらが撮影した古き良き時代の日本の写真。

「インスタ映え」という言葉が流行り鮮やかなカラー写真が世に溢れている現代で、なぜだか私自身は、モノクロで撮影されたスナップ写真が特に心に響いていたのでした。

■青森の海を愛した写真家

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発表され、外出自粛が続いた2020年4月頃から、私は工藤正市さんのInstagramアカウントにメールを送り、やり取りを始めました。

アカウントを管理し、古い写真をアップし続けていたのはご本人ではなく、工藤正市さんの娘さん。青森市出身で東京都在住の工藤加奈子さんだったのです。

そして私が「海と日本PROJECT in 青森県」の記事を書いていることを告げ「工藤正市さんは青森の海は好きでしたか?」とお尋ねしたところ、嬉しいご返答を頂きました。

(以下:工藤加奈子さん談)

父は海が大好きでした。私の記憶では父は「写真を撮る人」というよりも「朝夕、海に釣りに行く人」です。青森市沖舘地区にあった自宅から毎日朝夕、雨や雪が降っても、青森市西部地区の海で釣りしていました。

おかげで私たちは毎朝、父が釣ってきた魚を食べて育ちました。ソイ、サヨリ、アジ、クロダイ、などなど。 会社を退職後は、釣った魚で干物や漬物を作り、ご近所などに配ることが楽しみだったようです。

工藤正市さんの写真には青森県内で撮影された海の風景スナップが多数存在します。それはやはり工藤さんご自身が「海を愛していた」からなのだと知って、私はとても嬉しい気持ちになりました。

(以下:工藤加奈子さん談)

父は他界するまで、体調が悪くなってからも、周りの仲間たちに見守られながら海釣りに出かけていました。 動けなくなってからも、釣りや海の特集番組だけは欠かさず見ていました。

お葬式の時「海が大好きだった父の為に」と葬儀屋さんが祭壇をまるで海のように花を飾ってくれて、跳ねている魚のディスプレイまでしてくれました。 棺もわざわざ海の前を通ってから焼き場へ運びました。

■空気感をも切り取った写真

工藤さんの写真には、青森県内で撮影された海沿いに生きる人々の笑顔もたくさん登場します。まるで写真を撮ってもらうことを楽しんでいるかのような、その場の和やかな空気まで切り取っていることからも、工藤さんの優しい人柄が、私には感じられました。

工藤さんの写真を最初に紹介してくれた写真友達の「がまじさん」も「工藤さんのお写真は人物の表情が豊かで、スナップでありポートレートです。被写体との距離の近さには目を引くものがあると思います。そして決定的瞬間を見つけることがとても上手だなと。周囲に溶け込みながらリアルを映し出すことがすごいです」と語っております。

まだ「カメラ」というものを限られた人しか持つことができなかった時代。きっと写真を撮られるということに対して抵抗を持つ人も多かったかもしれません。

なのに、被写体との間にできる「壁」をあまり感じさせない、しかし適度な距離感を保ち、笑顔のある日常の風景という「瞬間」を切り取った工藤正市さんの写真の世界。

こんなに素晴らしい世界を切り取り続けた工藤さんは、残念ながら2014年に天国へ旅立ってしまいました。

娘の加奈子さんが、それからどのような経緯でInstagramにお父さんの写真をアップするようになったのか? 

お尋ねしたところ、実に興味深いご返答をいただきました。

 

<後編へ続く>

 

■工藤正市 Shoichi Kudo

1929年青森市生まれ 旧制中学卒業後 東奥日報社に入社

2014年 逝去 享年84

1950年代、写真雑誌に投稿。新人写真家として注目されたが、その後は新聞社の仕事に専念した。

工藤加奈子さんが管理されるInstagramアカウントはこちら:https://www.instagram.com/shoichi_kudo_aomori/

イベント詳細

イベント名【海を愛した写真家】故・工藤正市さんが撮影した青森の記憶写真<前編>

レポーター紹介

ハリヤマカズキ

故郷の青森市を拠点に写真家&ライター活動をしている。季節に関係なく全身で海を感じ、海産物に囲まれていると幸せを感じる。 

Instagram:https://www.instagram.com/hary_k_photo/

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