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工藤正市さんを特集した「海と日本PROJECT in 青森県」の記事を読んでいただいた「みすず書房・小川純子さん」
そこからどのように「工藤正市さんの写真集を刊行させること」に繋がったのでしょうか?
(以下:みすず書房・小川さん談)
工藤正市さんの記事を読んだ時から、もう熟考するもなにも、その日のうちに、「企画にできるか分からないけれど、写真集を作らせてもらえないか、一度お話をさせてほしい」と、Instagramのメッセージから工藤加奈子さんにご連絡をさせていただきました。
その時は正直「きっともう、既に誰かがこの写真を見つけてしまっているだろう」と半分諦めてました。
しかし加奈子さんから「仕事の関係で、1か月ほどお待ちいただけますか?」とお返事があり「もしや!?」と。逸る気持ちを抑えました。
それから1か月間は、毎日毎日「みすず書房内の会議で、工藤正市写真集の企画を通す策」を頭の中でグルグルと考えていました。
写真集の出版となるとコストもかかりますし「読者がどれほどいるのか」の予測も立てづらく、みすず書房ではとてもハードルが高い企画とも言えます。
会議ではもちろん、そのことは議論になりました。
しかし「工藤正市さんの写真の魅力」は同僚たちにも一目で伝わり「やってみよう!」と背中を押してもらえました。
今回発売される写真集。その中に掲載される写真についてですが、まず、正市さんが生前にプリントした写真が「青森県立郷土館」に保管されており、それを貸し出していただきました。
それらの写真は「正市さんご自身がセレクト」して「月例や展覧会の応募作としてプリントしていたもの」と思われましたので「それは尊重したい」と第一優先の収録作を100点ほど選ばせていただきました。
それに加えて「写真雑誌の月例入選作でプリントが残っていないもの」についてもセレクトし、雑誌からスキャニングを行いました。
また、instagramへの投稿は加奈子さんご夫妻により「見つかった古いフィルム」の束の中から一点一点スキャニングされ選ばれたものでしたので、お二人にも「写真集に収めたい写真」を選んでいただきました。それが250点程ありました。
その写真群を核にして、その他に私や、ご自身も写真を撮られるブックデザイナーの「松本孝一さん」とでセレクトした写真を加え、全てを合わせて選んでいきました。
選び、並べる作業を何度か行っていく中で、自然と写真集に収録する流れができていきました。
実は、写真集の最後に収録された「あとがき」は加奈子さんのお言葉なのですが、「海と日本PROJECT in 青森県」の記事を元にさせていただきました。
私が「工藤正市さんの写真と人柄」に掴まれてしまったのは、やはり「あの記事」でした。
写真集を編集している私の傍らにいつもあり、迷うことがあると、ときどき読み返していました。
今回、写真集を手に取って、初めて工藤正市さんのことを知る方もいらっしゃるかと思います。
そのような方にも、加奈子さんが語られる「父のエピソード」は、まっすぐ「工藤正市さんの写真の秘密」を伝えるもののように思えたからです。
なので、ライターのハリヤマさんが書かれた海と日本PROJECTの記事を「ほとんどそのまま収録しました」といってもいいです(笑)
もし、加奈子さんがフィルムを発見しなかったなら。そしてスキャニングをしてみなかったなら。インスタで発表しなかったなら――
全てが、ご家族の思いに導かれていることを考えると、写真集にとって、もっともふさわしい「あとがき」だと思っております。
まさしく、このサイトで工藤正市さんの記事で出会って以来、工藤正市さんの写真の力に突き動かされて、一気に駆け抜けてきたつもりの一年でした。
しかしご本人が居ない中での編集過程では、不明なこと、迷うこと、自信を持てないこと、なども多々ありました。
そんなとき、多くの地元青森の方々が直接、間接的に「楽しみにしています!」と応援してくださり、力を貸してくださりました。
写真の中の風景を手掛かりに、現地リサーチまでしてくださった方もいらっしゃいました。
そのみなさんから伝わってくる「郷土愛」とも言える思いは、私にとっては新鮮な感情でもありました。
今回発売されるこの写真集が、青森のみなさんの郷土への思いに応えるものになっていることを願いつつ、そして同時に、若き工藤正市の写真への情熱と夢が詰まった一冊でもあることも伝えられていたら、と願っています。
三代が一緒に眺められる写真集ですから、一点一点をゆっくりと眺めて、何度もページをめくっていただけたらうれしいです。(みすず書房・小川純子)
みずず書房、小川純子さんのお話を聞き、私も改めて「写真の力」というものを、じっくり考えました。
加奈子さんが発見した、大量のネガフィルム。そこに込められた「工藤正市さんが見た青森」は、間違いなく、世界中の人々に感動を与える力を秘めていたのでした。
私も正市さんの写真に惹かれたその一人であり、感動のまま記事を書かせていただきました。
写真に対する感動が誰かに伝わり、それが人から人へと拡散し、最後には写真集の発刊へと繋がることができたのだと考えると、、、
もう写真の力は「時代、言語、の壁を超える力がある」と言っても過言ではないでしょう。
それはまるで、正市さんが生涯愛した「海」のように。
大きくて、広くて、誰かと誰かを繋いでくれるもの。そしていつも、私たちを優しく見守ってくれるもの。
いま、目の前にあるこの一瞬も、すぐに思い出になってしまいます。
でも、未来がどんな世界になろうとも、決して消えてはいけないもの。
自分が、自分らしくいられる居場所で、大切な人たちと共に生きた時間。
正市さんはきっと、そんな世界を残したくて、人知れずシャッターを切っていたのかもしれません。
そして彼が切り取った「青森」は、半世紀という時を超え、そっと私たちに語りかけます。
判型 | A5変型判 タテ196mm×ヨコ148mm |
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頁数 | 432頁 |
定価 | 3,960円 (本体:3,600円) |
ISBN | 978-4-622-09020-5 |
Cコード | C0072 |
発行予定日 | 2021年9月16日予定 |
昭和30年代の青森で、人知れず奇跡の瞬間を撮り溜めていた写真家がいた。
没後、発見されたフィルムの束。そこに写されていたのは、戦後の青森に生きる人々の日常の姿と、やがて失われる情景への思慕にみちた、故郷を愛する写真家のまなざしである。
家族がインスタグラムで発表するや、国内外の写真ファンの間で話題に。
工藤正市の写真の魅力に、今、世界は目を奪われている。
出典:みすず書房公式HP から
イベント名 | 【後編】「青森 1950-1962 工藤正市写真集」は、どのように誕生したのか? |
青森県在住のライター兼フォトグラファー
海をはじめ、自然と人の繋がり表現したスナップ写真を撮るのを、ライフワークにしている
Twitter:https://twitter.com/hary_k_photo