青森県の陸奥湾には毎年、野生のイルカたちが春から初夏にかけて群でやって来ます。
イルカといえば、水族館のショーなどでお馴染みの「バンドウイルカ」などを想像しがちですが、陸奥湾にやって来るのは「カマイルカ」という白黒で身体が小さめのイルカです。
今回はその陸奥湾のイルカたちの生体について熱心に調査をされている「青森のイルカ博士」をご紹介させていただきます。
今回ご紹介させていただきますのは「青森大学薬学部 清川 繁人(きよかわ しげと)教授」(※以下、清川先生とご紹介させていただきます)
清川先生がイルカの調査を開始されたのは約10年前。大学で生物の授業を教える一貫で、生徒たちに「青森県の身近な野生生物を紹介したい」と思い、フェリーへ乗船してイルカを見たことが最初だったそうです。
また個人的にも「青森ならではの生き物」ということでイルカの写真を撮りたくて、何度も海に通われたそうで。そうしているうちに「そもそもイルカは、なぜ毎年のように陸奥湾にやって来るのか?」 と疑問を持ち、本格的な調査を始めることに繋がったそうです。
陸奥湾を回遊するイルカについて、清川先生はこれまでの調査から「陸奥湾海域の水温と、エサとなる小魚の数がイルカの行動を決定付けている」という大きな結論に達しました。
「日本海から津軽海峡を経由し陸奥湾に流入する暖流と、八甲田山など雪山から下った冷たい雪解け水が陸奥湾内でぶつかる。その境目にはプランクトンが豊富に発生し、イルカの餌となる小魚がたくさん集まってくる」という環境もまた、イルカが陸奥湾にやってくる大きな理由なのだそうです。
今年も5月の大型連休前後から、青森港の防波堤からもイルカを肉眼で確認することができたそうです。また、清川先生が本格的な調査をされた期間は5月上旬から6月下旬までの間で、イルカは2〜300頭ほどを確認できたそうです。一番多い頭数を確認できたのは6月2日と14日の調査の時で、この時が最高だったとのこと。
ちなみに一昨年(2017年)は約500頭のイルカが確認できたそうです。その年はイワシが大量だった、ということも大きく関係しているそうなのですが、今年(2019年)はイワシの量が多めな割にはイルカが少なかったそうです。
これに関しては様々な要因があるのだと思われますが、去年と今年は5月下旬に青森県内でも真夏日を記録するなど、海水温が非常に高かった。つまりイルカが一番陸奥湾にやってくる時期に急激に気温が高くなった、ということが大きな要因なのだと思われます。
カマイルカは「少し冷たい海」を好むのですが、イルカ自身も年々早めに北海道の方面へ移動する傾向が見られます。「これもまた地球温暖化の影響なのでしょう」と清川先生はおっしゃいます。
今年の調査では特に「海に浮遊するプラスチックのゴミが多い」という点もまた目立ったそうです。ゴミは海流的にも、陸奥湾内には非常に多く流れて来てしまいます。
平内町の夏泊半島や横浜町などは、陸奥湾の潮の流れが複雑なのことも影響で、流れ着く量も多くなってしまいます。特に発泡スチロールなどのゴミも多く、それらは海上で細かく砕けてしまうので、イルカにとってもあまり良いものではありません。
海のゴミに関しては国際的な課題ではありますが、やはり我々1人ひとりの意識が必要です。人間の使命として「野生の生き物が影響のないレベルまで海のゴミを減らすこと」は真剣に考えなければいけないことであり、多くの人々にもっと海についての関心を持ってもらうためにも、陸奥湾にやって来るイルカの観光PRもまた、さらに必要になっていくと思われます。
清川先生は今年の調査でもまた、イルカが陸奥湾にやってくる理由などについて「面白い発見があった」ということで、今後発表していかれる予定とのことです。楽しみですね!
また研究機材として「水中ドローン」も新たに導入し、陸奥湾内でも問題になりつつある「磯焼け」の状況なども観察し始めたとのことです。これを調査することでまた、海に関しての新たな発見があるのかもしれません。
「最初は授業の一貫として始まったことがきっかけのイルカの調査活動ですが、現在では青森県の観光PRにも役立てていることが嬉しいです。イルカは陸奥湾沿岸を始めとする地域の活性化の起爆剤になるのではないかと、これからも期待しております」と目を輝かせる清川先生。
陸奥湾内にやって来るイルカたちが、これからも変わらず、やって来てくれるために。 青森のイルカ博士の研究はまだまだ続きます!!
イベント名 | 【青森のイルカ博士】陸奥湾内を回遊するカマイルカの研究者、清川先生 |
「海と日本プロジェクトin青森県」の特派員として、フォトグラファー&ライター活動をしている。海のことを考えると眠れないのは海のせい?
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