レポート

太宰の足跡を追って旅する、青森の海(後編)

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太宰の足跡を追って旅する、青森の海(後編)

さて、「太宰の足跡を追って旅する、青森の海前編」はご覧になっていただけたでしょうか。
後編で太宰は、蟹田、西海岸の海を訪問します。
彼にとっては真新しい土地であったこの二か所の海は、どんな青さだったのでしょうか。

■潮風がなびく町、蟹田

太宰は、中学時代同じクラスであったN君と再会し、晩酌を楽しみます。

その翌朝、同じく友人のT君、そして彼の友人数名と連れ立って蟹田へ花見に出かけて行きました。
その日は、夏泊半島や下北半島まで見渡るほど晴れ晴れとした天気が彼らを迎え、風は少しもありませんでした。

太宰は蟹田の美しい海について、「東北の海と言へば、南方の人たちは或いは、どす暗く険悪で、怒濤逆巻く海を想像するかも知れないが、この蟹田あたりの海は、ひどく温和でさうして水の色も淡く、塩分も薄いやうに感ぜられ、磯の香さへほのかである。雪の溶け込んだ海である。ほとんどそれは湖水に似てゐる。深さなどに就いては、国防上、言はぬはうがいいかも知れないが、浪は優しく砂浜を嬲つてゐる。さうして海浜のすぐ近くに網がいくつも立てられてゐて、蟹をはじめ、イカ、カレヒ、サバ、イワシ、鱈、アンカウ、さまざまの魚が四季を通じて容易に捕獲できる様子である。この町では、いまも昔と変らず、毎朝、さかなやがリヤカーにさかなを一ぱい積んで、イカにサバだぢやあ、アンカウにアオバだぢやあ、スズキにホツケだぢやあ、と怒つてゐるやうな大声で叫んで、売り歩いてゐるのである。」と表現しています。

ここで「国防上」という言葉が出てきていますが、太宰がこれを執筆していた当時は、まさに戦時中だったのです。
戦時下とは想像もつかないほど、海は血相も変えず、柔和であったように思えます。

現在蟹田には、観瀾山公園海水浴場に面したトップマストという巨大な塔がそびえており、頂点の展望台からは、陸奥湾一面を鑑賞することができます。
おじいさんやおばあさんが声を張りながら魚介類を売っている風景はなくとも、このトップマストの中で蟹田の山海の幸がいっぱいに並べられています。

また、この場所はむつ湾フェリー乗り場にもなっており、下北の脇ノ沢地区までつながっています。
太宰も感じたような温厚な海を、今は、トップマストが父のように見守ってくれているようです。


青森観光情報サイトより https://aomori-tourism.com/spot/detail_389.html

■時の流れと共に刻まれる十三湖の水筋

太宰はそれから金木、五所川原、深浦などをまわったのち、終着地点の小泊へやってきました。
越野たけという、育ての親に会いに来たのです。

バスに乗って「越野金物店」へ向かう道の最中で、北津軽の海に出会った彼は「やつぱり、北津軽だ。深浦などの風景に較べて、どこやら荒い。人の肌の匂ひが無いのである。山の樹木も、いばらも、笹も、人間と全く無関係に生きてゐる。東海岸の竜飛などに較べると、ずつと優しいけれど、でも、この辺の草木も、やはり「風景」の一歩手前のもので、少しも旅人と会話をしない。やがて、十三湖が冷え冷えと白く目前に展開する。浅い真珠貝に水を盛つたやうな、気品はあるがはかない感じの湖である。波一つない。船も浮んでゐない。ひつそりしてゐて、さうして、なかなかひろい。人に捨てられた孤独の水たまりである。流れる雲も飛ぶ鳥の影も、この湖の面には写らぬといふやうな感じだ。」と思ったのだそうです。
現在の十三湖は潮干狩りが楽しめるシジミの名産地でありながら、キャンプ場やアスレチックが完備されており、レジャーシーズンには家族連れで活気にあふれます。

湖面は海の青さを映し出し、ボートも生き生きと駆けており、山の稜線の向こう側からやってくる飛行機も、長々と挨拶していきます。
太宰が感じたもの寂しさ、荒涼として自然的な姿からは身替りしてしまったようです。
「孤独の水たまり」は、人々の手によって賑わいをみせる行楽地になりました。


青森観光情報サイトより https://aomori-tourism.com/spot/detail_439.html

太宰治の「津軽」、皆様はどのように感じましたか?
懐旧、哀愁、愛着。
様々に渦巻く感情が波を立てる、そんな物語であったと、筆者は感じています。

彼が幼少期に慣れ親しんだ青森の海は、今も同じように、私たちに語りかけてくるようです。
しかしながら、海は永遠に変わらないように見えて、人の手によって少しずつその形を変えているのかも知れない、とも思います。

皆様は、青森の海に何を見ますか、何を感じますか?
県民の想いがゆらめくこの青い海がずっと受け継がれるように、私たちが守っていくことが大切ですね。

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